授乳お役立ちコミュニティNPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本

menu

私たちについて

  1. ホーム
  2. 私たちについて
  3. ニュース
  4. 母乳育児とメンタルヘルス

ニュース

母乳育児とメンタルヘルス

ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル(LLLI)と世界母乳育児行動連盟(WABA)の共同声明
2017世界保健デーによせて

今年の世界保健デーのテーマは「うつ病:一緒に話そう」。世界保健機関(WHO)によれば[1]、うつ病はすべての国においてすべての人生の局面で、どんな歳の人もかかる可能性のあるよくある精神障害です。うつ病は、心に激しい苦痛を引き起こし、日常の単純な作業さえもできなくなったり、場合によっては家族や友人との関係さえも破壊させてしまったりすることがあります。貧困、失業、愛する人の死や別れのような人生のできごと、病気、アルコールや薬物使用による問題などがあれば、うつ病になるリスクは高くなります。

母親や子どもたちも含め、だれでもうつ病になる可能性があります。うつ病になった母親は子どもの世話をするのがもっとたいへんになります[2]。母親に要求されることだけでも体がくたくたになるのに、産後にうつ病が重なったらさらにたいへんな状況です。うつ病は適切な治療で治すことは可能ですが、最終的なゴールは、うつ病を予防し、メンタルヘルスが長期的によい状態に保たれることでしょう。

国連の持続可能な開発目標(SDGs) [3]は、ミレニアム開発目標(MDGs)を基に作成され、生態系、経済、そして公平に関するさまざまな課題を網羅しています。SDGsは、すべての人のための心身の健康を推進します。そしてそれには母乳育児が大きな貢献を果たします。
(【訳注】:世界中の政府が2030年までに達成しようと合意した目標。昨年のWABAの世界母乳育児週間のテーマ「母乳育児:持続可能な開発の鍵」の日本語はこちら:http://worldbreastfeedingweek.org/2016/pdf/wbw2016-af-jp.pdf )

母乳育児とメンタルヘルスの関係

母親にとって

出産後、4割から8割ほどの母親がなんらかの形で「気分障害」(感情の浮き沈み【訳注】マタニティーブルーともいう。日本での割合は30%といわれている)を一時的に経験するものです。そして、13-19%の女性はその症状が2週間以上続き、産後うつ病を発症します。産後うつ病の主な症状は、不安、罪悪感、絶望、いらいら、気力がわかない、集中できないなどです。最近の研究で、母乳で育てることで母親が産後うつ病にかかりにくくなるのではと示されました。[4]

母乳で育てている母親は、人工栄養で育てている母親よりも、うつ病にかかるリスクが低くなります。また、うつ状態の母親も授乳するという行為によって恩恵を受けます。リスクが低くなる要因としては、次のようなことが挙げられます。

母乳分泌のホルモン

授乳しているときに分泌されるオキシトシンというホルモンは、母親にとって自然な鎮静効果があり、ストレスに対して何らかの保護効果があります。[4,5]母乳産生にかかわるプロラクチンというホルモンも、母親をうつ病にかかりにくくする働きがあるようです。ある研究では、プロラクチンの量の減少がうつ病の正確な予測因子だということを示しました。[5]どちらのホルモンも、うつ病と関係する体の炎症反応を減少させる働きがあります。

睡眠

複数の研究によれば、人工栄養や混合栄養で育てている母親にくらべて、母乳(だけ)で育てている母親のほうが、睡眠がとれていることがわかっています。睡眠時間も長くなり、一般的に気分もよくなります。[6,7,8]

子どもにとって

母乳で育てられている子どもは母親とひんぱんなふれあいがあります。胸に抱かれて母親から世話をされ注目されることが、赤ちゃんの生涯のメンタルヘルスに影響していきます。ある研究によれば、1年間母乳で育てられたことが14歳までの良好なメンタルヘルスと関連があることがわかりました。[9] 母乳育児の長期的研究でもよく見られる結果ですが、量依存性がありました。つまり長く母乳を飲んでいる子どもほどより良好な影響があったのです。

こうした良好な影響は、母と子がしっかり愛着形成していることでもたらされる安心感が基盤になっています。母親が常に赤ちゃんのニーズに応じて乳房を差し出すと、強い愛着形成がなされます。初期の愛着関係がのちの人生でのストレス対処の助けになっていきます。

研究者たちは、うつ病の測定方法として赤ちゃんの脳波を見ました。うつ病にかかった母親に母乳で育てられた赤ちゃんでも、脳波は正常でした。一方で、人工栄養で育てられた赤ちゃんには、うつ病と関連する脳波が見られました。母乳で育てている母親は、赤ちゃんを見たりふれたりして、自然に赤ちゃんとやりとりをします[10]。それが赤ちゃんに安心感を与えます。

母乳で育てている母親を支援すること:成功への鍵

女性たちのネットワークは、健康にかかわる選択・決断に大きな影響力があります。女性たちは似たような人生経験をしている女性によく惹かれます。子育てに関する同じような経験をしている場合は特にそうです。母親になったばかりの女性は、自分の経験を理解し同じだと思ってくれる別のだれかがいることで、母親になることをより楽しみ、その困難に対処することができます。母親と同じ立場で支援するピアサポートが、この役割を果たします。母親にとって母乳で育てているときに聞きたいことがあったり、相談したいことがあったりした場合の生命線にもなりうるのです。

どうしたら母乳育児がスムーズにいくのか、どういう兆候が問題の始まりを示すのか、必要な場合はどこに援助を求めればいいのか。母親がそうしたことを習得できるよう助けることがうつ病の予防になるかもしれません。母乳育児が当たり前の文化を創ることで、母親になった女性が子育てという旅路を始めるにあたっての、ロールモデル(模倣できる見本)を得られるようになります

ラ・レーチェ・リーグのような母親支援グループに参加すると、ロールモデルが見つかりますし、よくある母乳育児の状況や問題解決のための正確な情報を知ることができます。
母親や子どもの中には実際にうつ状態になる人がいます。それは否定できない事実です。
それでも、母乳育児には多くの利点があり、少なくとも何らかのうつ病予防にもなることがわかっています。

簡単にまとめますと、母乳育児は、一人ひとりのお母さんや赤ちゃんを通じ、世界をより幸せに健康にしていきます。すべての母親と赤ちゃんのメンタルヘルスを良好にするために、そして母乳育児の経験が実りあるものになるために、「あたたかい支援の輪」を作っていきましょう。

(【訳注】母乳で育てるとうつ病にかかりにくくなると言われていますが、一方で母乳育児がうまく行かなくなるとうつ病のリスクが高くなるとも言われています。産院のルーティンを見直すことで予測できる困難を予防し、初期のよくある困難を乗りこえられるようなあたたかい支援が必要です。それとともにどのような選択をしても母親に寄り添う支援が必要です。そして多くは、似たような経験をしてきた母親に出会うことで、自分はひとりではないとわかります)

◇ラ・レーチェ・リーグの日本における集いと無料の電話相談はこちら

主な作成者:
Melissa Clark Vickers ,ラ・レーチェ・リーグ リーダー
Chuah Pei Ching, WABA Secretariat
(訳:ラ・レーチェ・リーグ日本 本郷寛子 校正:引地千里 森あさよ)

参考文献

  1. http://www.who.int/campaigns/world-health-day/2017/campaign-essentials/en/
  2. Neuroscience Shows Breastfeeding is Not Just Milk. KA Kendall-Tackett. 2017
    https://womenshealthtoday.blog/2017/02/17/neuroscience-shows-breastfeeding-is-not-just-milk/
  3. http://www.un.org/sustainabledevelopment/sustainable-development-goals/
  4. Oxytocin Mediates a Calming Effect on Postpartum Mood in Primiparous Mothers. Risa Niwayama, Shota Nishitani, Tsunehiko Takamura, et al. Breastfeeding Medicine. 2017; 12(2): 103-109.
  5. Can Hormones in Breastfeeding Protect Against Postnatal Depression? Fiona Donaldson-Myles. British Journal of Midwifery. February 2012; 20 (2): 88-93.
  6. Lactation is Associated with an Increase in Slow-Wave Sleep in Women. DM Blyton, CE Sullivan, N Edwards. Journal of Sleep Research. 2002; 11(4): 297-303.
  7. Breastfeeding Increases Sleep Duration of New Parents. T Doan, A Gardiner, CL Gay, and KA Lee. Journal of Perinatal & Neonatal Nursing. 2007; 21(3): 200-206.
  8. The Effect of Feeding Method on Sleep Duration, Maternal Well-being, and Postpartum Depression. KA Kendall-Tackett, Z Cong, and TW Hale. Clinical Lactation. 2011; 2(2): 22-26.
  9. The Long-term Effects of Breastfeeding on Child and Adolescent Mental Health: A Pregnancy Cohort Study Followed for 14 Years. WH Oddy, GE Kendall, J Li, et al. Journal of Pediatrics. 2009; 156(4): 568-574.
  10. Patterns of Brain Electrical Activity in Infants of Depressed Mothers who Breastfeed and Bottle Feed: The Mediating Role of Infant Temperament. Biological Psychology. 2004; 67: 103-124

ラ・レーチェ・リーグ(LLL)は“母乳で育てたいお母さんを支援する”ボランティア団体です。「1対1の人間的なあたたかみを大切にし、お母さんがお母さんの思いに寄り添いながら支援する」ことを原点に、母乳育児の情報を提供し、励ます活動をしています。1956年にアメリカで誕生して以来、世界中に活動が広がりました。7人の創設者が始めた「母親から母親へ」という独特の支援の方法は、半世紀以上経った今もなお、世界各国のラ・レーチェ・リーグ リーダーに受け継がれています。https://llljapan.org/

世界保健行動連盟(WABA)は、世界規模で母乳育児を保護・推進・支援する個人と組織の世界的ネットワークです。WABAの活動は、「イノチェンティ宣言」、「すばらしい未来を作り出すための10のリンク(連結)」、「乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略」に基づいています。WABAの現在の中心団体は、乳児用食品国際行動ネットワーク(IBFAN)、ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル(LLLI)、国際ラクテーション・コンサルタント協会(ILCA)、ウェルスタート・インターナショナルと母乳育児医学アカデミー(ABM)。WABAは、ユニセフ(国際連合児童基金)の諮問資格を有し、また、国連経済社会理事会(ECOSOC)の特殊協議資格をもつNGOです。https://waba.org.my

日本では、母乳育児支援ネットワーク(BSNJapan)がWABAの支援団体として登録され、WABAから毎年発行される世界母乳育児週間のパンフレットを日本語に翻訳して紹介しています。https://bonyuikuji.net


今すぐ相談

赤ちゃんの様子、栄養、授乳の方法など、母乳に関わることで不安なこと心配なことがあれば、どんなことでも気軽にご相談ください。お話をゆっくりお聞きして、あなたの状況に合った情報をお伝えします。